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最近見た映画で特に面白かった作品

『トロイ ディレクターズ・カット』

本作は一見すると大味な娯楽作品だが、何故か記憶に残ってしまう珍しい作品だろう。
2000年代のハリウッド映画の革新はCGに間違いない。「スターウォーズⅠ・ファントムメナス」「ロード・オブ・ザリング」等の大量な軍団兵士映像は、それまでのエキストラ動員では限界があり、宣伝では“万の”と謳っても画面を切り取った精々“数百~千”が関の山だった。
だからスターウォーズもエピソードⅣから始めざるを得なかったのだが、CG進化が動員数リミッターを突破させたのだ。
本作もその新技術の旨味を前面に押し出した造りで、しかも「イーリアス」をモチーフにしつつも史実と関係ない創作ストーリー、主演ブラピのナルシズムな肉体美と来れば、どうしても批評家ウケしそうもないバタ臭い作品に映ってしまう。
しかし監督は「U・ボート」「ザ・シークレット・サービス」「アウトブレイク」の名匠ウォルフガング・ペーターゼンなので、テーマにはちゃんと芯がある。
それは同じ剣士でも、忠誠心や自分の名を残す為だけに闘う戦士と、本当に護るべき物への責任で立つ勇者の違いだ。ブラピ演じるギリシャのアキレスと、エリック・バナ演じるトロイのヘクトルの対比が正にそれだが、二人を取り囲む数多くの登場人物が実はかなり特徴的なのだ。
誰もがその身勝手さに苛立ち覚えるパリス王子とその新妻ヘレン、高い城壁を過信し王国を危険に晒しても彼らを溺愛するトロイ王のプリアモス、覇王アガメムノンと体育会系メネラオスのイケイケ兄弟、そのギリシャ王一族に知恵で遣えながら我が儘社員アキレスを手懐ける企画役員オデュッセウス、敵将と会って本当の愛を知るアポロ神殿の巫女ブリセイス、戦功を立てたくて血気に逸るパトロクロス、そしてトロイの作戦会議で好き勝手に主戦論を展開する群臣達や呪い師らは、確かに脇役に過ぎないが、時間を割いてまで見せる彼らの存在がブラピを単純なヒーローに見せない鍵だ。
それは彼らが、実はとても我々と同じ一般人に近く、愛や欲望や煩悩に流され、権威に慢心し、軽率な妥協で判断を誤るからだ。
観客はイライラするが、それが人間の本質であり、名作はそこを省略したり誤魔化さない。対する主人公アキレスは完璧に見えて所詮は戦闘マシーンとするカタルシスにいつの間にか嵌まってしまう仕掛けだ。
この豊富な人間臭いキャラ達の立て方は戦史モノでは屈指。勧善懲悪ストーリーとは異なり後味が様々で複雑なので一概にスッキリはしないが、個の選択がリアルで間違いなく記憶に残る。
勇者やリーダーとは、これら人間の稚拙さや醜さの全てを“護るべき不完全な愛らしさ”として受け入れた人間なのだろう。トロイ国民の業を双肩に負ったヘクトルを映画途中に退出させる演出こそ、本作の真骨頂だと思う。
死ぬことで人の行動に反省と変革を促すことも多い勇者の宿命とは、革新的政治家のユリウス・カエサルリンカーンやJFK、キング牧師らの暗殺と象徴化してきた歴史を考えれば普遍性がある。
本作は人の現実に忠実なるが故に、ちゃんと心に刻まれるCGだけで語れない傑作です。